前回は電流計・電圧計が理想的なものでない(内部抵抗をもつ)事による影響に関して 書きましたが,今回は配線や測定環境等が理想的でないことによる効果に関してです. まず,身の回りにはさまざまなノイズ源があふれています.特にモーター類などは かなりの電場・磁場変動を撒き散らしますので,強力なノイズ源となります. *まあもっとも,これら誘導負荷の類は空間を飛んでくるやつよりは,電源系を通して伝わる ノイズの方を盛大にばら撒くのですが. さらに測定系の周囲に置いてある物体も,帯磁したり帯電したりすると, (特にそれらが移動した場合などに)測定系中に余計な電場勾配を作ったり しますのでやはり測定にエラーが入ってきます. また単なる空間でも,微妙に電位が上がったり下がったりしますので,空間中に 這わせているだけの電線の電位も,電源電位に対して簡単に上下してしまいます. こういった外部からの影響を遮断するには,一番単純には測定系すべてを適当な 金属製の箱で覆ってしまうという手段があります.特に軟鉄など透磁率の大きな 金属で覆ってしまえば,磁場変動による効果も遮断できます.さらにこの箱自体を アースに繋いで定電位としてしまえば,外部電場の効果は完全に遮断されます. *ただし,落とす先のアースには十分注意する必要があります.下手にそこらの電源系の アースに落とすと,別の機器の発するノイズが電源ラインを伝わってきて余計に測定結果が 怪しくなる場合もあります.可能ならば,太い金属棒を地面に埋め込んで,そこから 単独でアースを取るのが効果的です. とはいえ実際には測定系全体を囲うのは大変ですし,場合によっては測定系内の測定器自体が ノイズをばら撒いていたりもしますので,現実的には同軸線を使って,中心線を信号線に, 周囲を覆っている部分をシールドに使う,という事になるのが多いと思います. そしてこのシールドをグラウンドに落とすことで,シールド内部の配線の電位への外場の影響を遮断するわけです. ではこれで完全かと言うと,サンプル抵抗が非常に高い場合(通常1GΩ以上程度) になると,今度は配線の絶縁抵抗が問題になってきます. シールドされた測定系は下図の(a)のようになっているわけですが,これを簡略化して (b)のように書きます.こう書くとシールド線と信号線の間は完全に絶縁されているように 思えますが,現実の系では,配線内の絶縁層にも有限の抵抗値があるため,実際には 下図(c)のような回路となってしまいます. ここで新たに付け加わった抵抗が,同軸線内で信号線から周囲のシールド線に漏れていく 電流の経路をあらわします.これを防ぐにはどうすればいいか?その解決策となるのが ガード電位を間に挟む以下のようなセッティングです. グラウンドに落ちているシールド線と信号線の間に,オペアンプによって駆動されるガード線が 入っています.ガード線はサンプルの直前まで信号線を覆っています.(サンプル後は ガードは要らない) このガードの電位は,オペアンプによって常に信号線のHI側と一致するように 駆動されます.ガード線と信号線の間にももちろんある絶縁抵抗を通して電流が流れますが, 両者の電位が常に等しいようにオペアンプで制御されているため電位差が無くなり, 流れる電流はゼロとなります. 一方,ガードからシールドへは電流がリークしますが,この電流は電流計を経由しない オペアンプからの電流であるため,測定値には影響を及ぼしません. これによって漏れ電流の影響を防ぎ,数十GΩ以上の抵抗までの測定が可能となります.
*ただ,3重同軸(triaxial)のケーブルやコネクタは,単なる同軸に比べ途端に入手が大変に
なります.特に細いケーブルは探すのが大変かもしれません.
そういう場合は同軸線の中心を信号,外側をガードにするだけでもある程度の効果は
得られます.ガードもしっかりとした固定電位になっていれば実質シールドと同じようなもの
としても働きますので. |