金属ナノ粒子生成

 

このようにそのままでも構造・磁性的に面白いCoC2などのMC2 化合物ですが,さらに面白い特徴として加熱により金属ナノ粒子を生成する,というものがあります. アセチリド化合物はM2+C22-とイオン結晶になっていますが, エネルギー的に考えるとC22-はあまり安定ではなく,中性の金属と 中性の炭素になったほうが安定なはずです. 結晶中では周囲に配置しているイオンとの間のクーロンエネルギーでかろうじて準安定状態に 留まっていますが,ひとたびその構造が崩れると容易にC22-から M2+へと電荷移動を起こし,中性のMとCとに分離するはずです. 構造を崩す一番簡単な手段は加熱です.MC2化合物はC22- が回転したり水が入ったりすることからもわかるように,比較的すかすかな構造をしています. ですから,加熱により容易に原子が移動し中性化することが期待されます.

MC2を作ってから加熱してももちろんナノ粒子は出来るのですが,いったん大気中に 出してしまうと水を吸ってしまい,加熱時に酸化物を生じてしまいます. そこで合成温度を240℃程度とし,MC2ができたそばから分解していくような 条件にして作ったサンプルをTEMで観察したものが下図の通りとなります.

Fe@C

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Co@C

金属原子は中性化して集まり,弾き出された炭素原子が周囲に殻を作っています. この殻の存在のために,この金属ナノ粒子は酸化や酸による溶解に対して強く,例えば pH=1程度の溶液に1時間ほどつけておいてもまだほとんど分解されずに粒子は残っています. またこの炭素の被覆があることで熱処理時のアグリゲーションを防ぐこともできるかもしれません.

このようにして得られる粒子の粒径は加熱時間により決まり,短時間の加熱ならば微小な粒子(<5nm),長時間だと各金属ごとに決まった程度のサイズ(例えば鉄なら100nm弱, コバルトなら20nm程度など)で成長がある程度抑制されます.これはおそらく余った炭素でできる被覆の厚みが 厚くなり,それ以上成長しないというサイズがあるためだと考えられます. ただ,やはり長時間の加熱では粒子の融合などが起きるのか,サイズ分布がだんだんばらけてきて, 大きな粒子が混ざりだします. このあたりのサイズの完全なコントロールは今後の課題ですね.

もう一つの特徴としては,hcp構造をとりやすい,ということが挙げられます. この手法で作ったCo,Ni,Pdなどのナノ粒子はhcp構造をとりますが,通常これらの金属は fcc構造をとりやすく,hcpにするには熱処理などの過程を経る必要があります.特にPdなどでは 通常hcp構造をとることはありえないのですが,本手法では明らかにhcp相とみなせるXRDパターンを示す 部分が存在します. これは恐らく,過剰に炭素を含むいわば炭素過飽和の金属-炭素固溶体の分離でナノ粒子の 生成が起きているためだと思います. つまり,通常ありえない相を出発点とし,そこから比較的低温で分解させるため, 普通ではたどり着かないような準安定相で止まってしまっているのではないかと言うことです. 類似の例としては,Pd-C60の熱分解でhexagonalな対称性を持つ準安定相が発生する, というような報告があるようです.[1]

このナノ粒子に関する研究は論文になっております.もしよければそちらもご覧ください.[2]

[1] B. Wang et al., Mater. Res. Bull., 2000, 35, 551-557.
[2] J. Nishijo et al., Carbon, 44 (2006) 2943-2949.