この元素サンプルは,窒素の単体である窒素ガス(N2)をガラスに封入したものです.単離を誰が最初に行ったのかは議論がありますが,18世紀後半には単離が実現していたようです.Nitrogenの名称は,硝石(Nitron)を生じる(gen)から.ラヴォアジェはazoteと名づけ,現代でも窒素を含む化合物名などに「azo」の語が含まれています.
この元素サンプルは,窒素の単体である窒素ガス(N2)をガラスに封入したものです.単離を誰が最初に行ったのかは議論がありますが,18世紀後半には単離が実現していたようです.Nitrogenの名称は,硝石(Nitron)を生じる(gen)から.ラヴォアジェはazoteと名づけ,現代でも窒素を含む化合物名などに「azo」の語が含まれています.
窒素はN2として大気中のおよそ78%を占める元素で,生物を形作る主要元素(※CHONとかCHONPSとか呼ばれる)ものの一つです.大気中には豊富に存在するものの,N2としての安定性が非常に高いため生物がこれを利用することはなかなかに困難で,一部の細菌(窒素固定細菌)の持つ特殊な酵素以外ではなかなか利用可能な分子へと変換することが難しいことが知られています.このため,この「そこそこの量が必須であるのに,手に入れにくい」窒素を含む分子を肥料として与えると植物が良く育つことになります(※窒素は,肥料の三要素であるN,K,Pのうちの一つ).植物の中には,マメ科植物のように根の中に窒素固定細菌を住ませて共生するもの(※根粒菌)なども存在しています.
20世紀初頭に開発されたハーバー・ボッシュ法は,高温・高圧条件下で鉄触媒により窒素ガスと水素ガスからアンモニアを合成するという画期的な方法です.これにより人類は無尽蔵の窒素肥料を空気(と水と燃料)から合成できるようになり,食糧生産を数倍に拡大することが可能となりました.現在では,自然界を循環している窒素のおよそ半分が人類がハーバー・ボッシュ法で作り出したアンモニア由来となっており,過剰の窒素分が自然界に流入することによる環境汚染も深刻となっています.現在,肥料使用量の適正化が進められていますが,まだまだ改善できる部分が多い状況です.また,ハーバー・ボッシュ法は高温高圧を必要とするためエネルギー効率が悪く,膨大な燃料が消費されることも問題です.ハーバー・ボッシュ法に代わる常温・常圧条件下でのアンモニア合成の研究も数多く行われているものの,まだ解決すべき課題も多く,さらなる研究が必要です.
窒素の用途では,最近では窒化ガリウム(GaN)が大電力を変換するためのパワー半導体などに利用されるようになっています.スマホなどの小型充電器が実現できたのは,電力のロスが少ない(=発熱が少ない)GaN素子が実用化されたことによります.
窒素ガスは非常に安定で,ほとんどの物質と反応しません.このため産業分野では安価な不活性ガスとして利用されており,酸化しやすい物質を扱うラインに窒素を充満させ酸化を防いだり,飲料や食品の容器内を窒素で満たすことで劣化を防いだりと,幅広く利用されています.また,液体窒素は−196 ℃(およそ77 K)という沸点をもち,安価かつ製造しやすい冷却材としても良く使用されています.