原子番号17 塩素

この元素サンプルは,塩素ガス(Cl2)を冷やして液化した状態で耐圧ガラスに封入したものです.塩素は常温・常圧では薄黄緑色〜薄黄色の気体として知られますが,液化したことでその黄色がより際立って確認できます.塩素の単離はシェーレにより1774年に実現されましたが,彼はこれを化合物だと誤認していました.1810年にはデービーが同様に単離に成功し,これを元素だと主張.彼は気体の塩素の色「淡い緑」(khloros)にちなんでこの元素をChrolineと名付けました.

Element Cube_塩素

塩素は塩化物イオンの形で自然界に豊富に存在する元素で,例えば海水中にも膨大な量が含まれています.負イオンである塩化物イオンは非常に安定ですが,電気的に中性な塩素原子は非常に強い酸化力をもっており非常に危険です.塩素ガスは人類初の大規模に使用された化学兵器としても知られています.

塩素の酸化物は工業・産業分野でもよく用いられています.例えば次亜塩素酸イオン(ClO)はその強力な酸化力を活かし殺菌・漂白に利用されています(いわゆる塩素系漂白剤).次亜塩素酸イオンは酸性条件下では迅速に分解して酸化力の強い塩素ガスを放出するため,酸性洗剤とは絶対に混合しないように注意書きがなされています.他の酸化物としては,過塩素酸イオン(ClO4)は熱などにより分解して相手を酸化することから,花火や固体燃料ロケットの酸化剤として利用されています.これら塩素の酸化物は強い酸化力があるため有機物とは爆発的に反応を起こすことがあり,取り扱う際には注意が必要です.

塩素原子は,有機化学でも多くの利用が行われている元素です.例えば代表的な有機溶媒であるジクロロメタンやクロロホルム,四塩化炭素などは全て塩素原子を含む有機物です.ドライクリーニングでよく使われていたテトラクロロエチレンも塩素を含む化合物ですが,ハロゲンを含む有機物は肝臓などにダメージを与えるものが多いことから,最近ではより毒性の低い溶媒に変わってきています.塩素を含む有機物を取り上げるなら避けて通れないのが,フロンはフッ素や塩素が結合した有機物の総称で,かつては工業製品の洗浄やエアコン等の冷媒ガスとして多用されました.これらフロン類には人体に害のない物質も多く,安全で優れた特性から膨大な量が使用されていましたが,大気中に放出されるとその安定性ゆえに成層圏まで拡散し,そこで紫外線により分解され塩素原子を放出,これが膨大な量のオゾンを破壊することが判明したため,現在では製造や使用が厳しく制限されてきています.

塩素を含む化合物としては,ポリ塩化ビニル(いわゆる「塩ビ」)が高い安定性と絶縁性などにより配管材料や配線の被覆など幅広い用途で使用されています.これら塩素を含む有機物は,焼却炉での燃焼の際にダイオキシンを発生させるとして一時使用が避けられました.現在では,そもそも食塩と有機物を燃やしても同様にダイオキシンが発生すること,250〜400 ℃あたりの温度を避けもっと高温で燃焼させればダイオキシンの発生は防げることなどが明らかとなり,焼却炉の改良などによりこの点が問題になることはほぼなくなりました.

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