この元素サンプルは,カリウムの単体である金属カリウムをガラス管に封入したものです.単体のカリウムは1807年にデービーによる電解還元によって得られました.英語名のPotassiumは,かつてカリウムイオンを含む化合物の原料として壺(Pot)の中に植物の灰(Ash)を入れて煮込んだ溶液が使われたことにちなみ,デービーが命名しました.日本やドイツでの呼び名(そして,元素記号のもととなった呼び名)であるKaliumは,植物の灰を意味するal-qally(※「アルカリ」の語源でもあります)の後半部分に由来すると言われます.
カリウムはアルカリ金属元素であり,電子を放出して+1価のK+になろうとする傾向の非常に強い元素です.このため自然界ではすべて+1価のイオンとして存在しています.溶融塩電解などで金属カリウムの単体を得ることはできますが,反応性が高くいろいろなものと反応してしまうため,単体の金属の用途はほとんどありません.カリウムは海水中に多量に含まれており,また古代の海などを由来とする岩塩などの鉱物としても産出し,資源としてはほぼ無尽蔵に利用できる元素です.
カリウムイオンは生体内で重要な役割を果たしています.細胞膜に存在する膜タンパクの中には,ナトリウムイオンのみを選択的に通すイオンポンプや,カリウムイオンのみを選択的に通すイオンポンプが存在します.これを利用し,細胞の内外であるイオンの濃度に大きな差をつけておくと,イオンチャンネルを開いたときにそのイオンが濃度の低いほうに一気に流れ出し,細胞内外での電位差を作ることができます.これにより生じた電気的な刺激を使って,神経細胞などは情報電体を行っています.神経細胞以外に対してもカリウムは重要な働きをしており,また高血圧のリスクを抑える効果も知られています(もちろん,摂取しすぎは悪影響がありますが……).植物においてもカリウムは重要な元素で,カリウムが不足すると植物の成長や色づきが悪くなります.
工業・産業分野では,さまざまなイオンの対イオンとして利用されることがありますが,そのような用途ではより安価なナトリウムイオンでも問題がないことが多く,カリウムをわざわざ使う例は少ないと言えます.金属ナトリウムと金属カリウムを組み合わせた合金であるNaK合金は,混合比によっては室温よりも低い融点を実現できます.室温で液体でありながら,沸点は水をはるかに超える700 ℃以上となるため,「熱をよく伝え,ポンプで流せる液体でありながら,沸点が非常に高く高温の物体に接触させても気化しない」という特徴から,熱媒体としての利用が検討されることもあります.ただ,NaK合金も金属カリウム同様非常に反応性が高いため,配管から漏れると火災などを引き起こすという大きな問題もあり,利用例は非常に限られています.
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