原子番号22 チタン

この元素サンプルは,チタンの単体である金属チタンの断片です.元素としてのチタンは1791年にイギリスのグレゴールにより存在が発見されましたが単離には至りませんでした.続く1795年にドイツのクラプロートが別種の鉱物に未知の元素が含まれていることを発見し,ギリシャ神話のタイタン(Titan)がら命名しました(その後,この元素がグレゴールが見出した元素と同じものだと判明します).チタンは酸素との結合が非常に強く,鉱物中の酸化物から単体のチタンを取り出す試みは難航します.まだ数パーセントの不純物を含む者の,およそ95%の純度のチタンの分離に成功したのは1887年(ニルソン&ペテルソン),四塩化チタンを金属ナトリウムで還元する方法でほぼ純粋なチタンが得られたのは1910年(ハンター)と,元素の発見から120年近い時間を要しました.

Element Cube_チタン

チタンは酸化されやすい金属ではありますが,酸素による酸化で生成する酸化物(TiO2)が稠密で非常に安定な物質です.このため金属チタンはその表面が安定な酸化物で隙間なく覆われることとなりそれ以上酸化が進行せず,貴金属に近いレベルの優れた耐食性をもつ金属として利用できます.金やプラチナと比べると格段に安価でしかも重量は数分の一と軽いため,耐食性の高い金属としては非常に使いやすい金属です.一方で,金属の表面が酸化物で覆われてしまうため溶接が難しく,また融点以上の温度では酸化膜による保護もうまく働かないことから,鋳造にも向いていません.溶接・鋳造を行うためには,高温条件下でも酸化が進まないように不活性ガス雰囲気中で加工を行う必要があります.

チタンは鋼鉄を超える強度をもちながらも重量は鋼鉄の半分程度と軽く,高強度でありながらも軽い材料として利用されています.軽量な金属としてはアルミやその合金もありますが,強度では圧倒的にチタンの方が高いため,強度を必要とする用途ではチタンに優位性があります.またさまざまなチタン合金も開発され,耐食性や強度をさらに上げた材料なども存在します.

金属チタンの用途としては,航空機や潜水艦など強度と軽量さが必要とされる分野が多く,ほかにも競技用の自転車やスポーツ用品,メガネのフレームや時計など身近なところでも利用されています.耐食性の高さもあり,化学プラントなど反応性の試薬に接する部分にチタンが使われる例も多くなっています.また生体親和性が高くアレルギー反応を起こしにくい(※起こさないわけではありません)という特徴から,体内埋め込み型の医療器具にも利用されることがあり,歯科のインプラント材料や骨折の際の固定用プレート,人工関節の材料などとしても使用されています.さらにチタンの軽さ・強度・燃えにくさ・高い耐食性による寿命の長さを活かす用途としては,屋根や瓦などに利用されることもあります.ただチタンの精製にはコストがかかるため金属としての価格は高く,初期費用は高めです.

チタンの化合物としては,二酸化チタンが良く利用されています.二酸化チタンは高い安定性とその真っ白な色合いから,化粧品に混ぜ込む白色顔料として利用されています.紫外線もよく散乱することから,日焼け止めなどにも含まれています.二酸化チタンは光触媒能をもち,紫外線が当たるとその表面で酸化還元反応を引き起こします.これを利用し,付着した汚れが自然分解するような壁材や塗料なども販売されています.この光触媒反応は1967年に日本で見つかり,本多-藤嶋効果と呼ばれていますが,効率は低いながらも水を太陽光だけで分解して水素(と酸素)を発生できる反応として知られています.酸化物では,チタン酸バリウム(BaTiO3)が非常に高い誘電率や強誘電性を示し,セラミックコンデンサなどの誘電材料やサーミスタ温度センサーなど,さまざまな場所で利用されています.

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