原子番号26 鉄

この元素サンプルは,鉄の単体である金属鉄です.鉄を表す元素記号であるFeは,ラテン語で鉄を表すFerrumに基づきます.

Element Cube_鉄

自然界にある酸化鉄から金属鉄を得る製鉄は紀元前2000年ごろには始まっていたと言われていますが,それ以前にも鉄隕石などを加工して鉄器は利用されていたようで,鉄は非常に長い歴史を持つ金属です.鉄の生産量は金属材料のなかでも群を抜いており,粗鋼が年間でおよそ19億トン生産されているのに対し,銅は2000万トン,アルミニウムが7000万トン,亜鉛が1300万トンなどでその生産量には大きな開きがあります.

常温での鉄はあまり炭素が入り込めない結晶構造をしていますが,高温に加熱することで1%前後の炭素を溶け込ませることができ,これを急冷すると炭素が抜けだす前に冷えてしまい,常温でも炭素を多く含む鉄である鋼を作ることができます.炭素を過剰に含んだ鉄は準安定状態であり,これを適切な温度に上げたり,逆に特定の温度以下に下げたりすることで,部分的に炭素がはじき出された構造との微細な混合物を作ることができます.炭素含有量が高い鉄は硬い一方でもろく壊れやすく,逆に炭素含有量が低すぎると柔らかすぎるのですが,さまざまな熱処理を組み合わせることでやわらかい鉄と硬い鉄が交互に混在したような構造などを実現でき,それにより硬さと柔軟性を兼ね備えた材料などとすることができます.このため鉄においては熱処理が非常に重要であり,製鉄の現場では焼き入れ,焼き戻し,焼きなまし,焼ならし,サブゼロ処理,クライオ処理など,さまざまな熱処理法が使用されています.また炭素以外にもいろいろな金属との合金化により鉄はその特性を変え,耐食性や耐熱性などを高めることが可能です.

鉄はその存在量が非常に多く,ほどほどに還元されやすいため炭素とともに加熱するだけで単体の鉄を得ることができるため比較的安価に利用できる金属です.十分な硬さと柔軟性ともあいまって,鉄は我々の身近なところで多用される金属となっています.また鉄やその化合物は磁性体としても利用されており,酸化鉄の一種であるマグネタイトは古くから磁石として用いられてきましたし,現在実用化されている中で最も強い磁石であるネオジム磁石も,その主成分は鉄です.地球を宇宙の放射線から防護している地磁気も,鉄を主成分とする地球の中心核に由来すると考えられています(※ダイナモ理論:導電性の高い流体が回転することで磁場を生み出す).

なお,現在の製鉄業で利用されている鉄鉱石は,今からおよそ30億年前にうまれた光合成をおこなう生物である「シアノバクテリア」に由来すると考えられています.当時,海水中には比較的溶解度の高いイオンであるFe2+が豊富に存在していましたが,シアノバクテリアが光合成を始めると,その光合成により生み出された酸素によりFe2+はFe3+へと酸化されました.Fe3+は溶解度が低く,さまざまな塩の形で一気に沈殿し海底に鉄を豊富に含む地層が生成されます.これが長年の地殻運動などの結果鉄鉱石へと変化し,現在のわれわれの社会を支える鉄資源として利用されています.

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