原子番号28 ニッケル

この元素サンプルは,ニッケルの単体である金属ニッケルの粒です.ニッケルは1751年にスウェーデンのクロンステットによって発見・単離されました.ニッケルという名称は,ドイツの鉱夫がニッケルを含む鉱石である紅砒ニッケル(NiAs)をKupfernickel(ニックの銅)と呼んだことに由来するとも言われています.紅砒ニッケルは銅鉱石に似ているのに処理しても銅が全く取れないことから,ニックという精霊(もしくは悪魔)による嫌がらせ(いたずら)だとしてこう呼んだようです.

Element Cube_ニッケル

ニッケルも比較的存在量の多い元素であり,鉄隕石や地球の中心核などで鉄との合金を作っていることが知られています.地表付近での存在量はそれほど多いものではありませんが,銅と同じ程度には存在しているようです.大気中などの酸化条件下では+2価の状態が安定で,様々な塩が知られています.

比較的耐食性が高めであることから単体でのメッキにも用いられますが,それ以上に鉄や銅などと組み合わせた合金としての利用が多い金属です.我々の身近なところでも多用されるステンレス鋼にも含まれることが多い元素です.身近なところではもう一つ,銅に25%程度のニッケルを加えた白銅が50円硬貨や100円硬貨として使用されています.白銅は美しい銀色の輝きが持続し酸化しにくいことから,比較的安価な銀の代替品として硬貨などに用いられていますし,耐食性の高さから海水に接する部品などに利用されることもあります.

ニッケルはまた,有機化学における触媒としても良く利用される元素です.ニッケルや周期表でその下に位置するパラジウム,白金は非常に優れた触媒特性を示し,さまざまな場所で利用されています.例えば不飽和結合に水素を添加する反応で優れた特性を示すなど,ニッケルと水素の親和性が活用されています.水素との親和性で言うと,身近なところではかつての三洋電機(現Panasonic)のEneloop等のニッケル水素電池でもニッケルは活用されています.

ニッケルの合金にはさまざまな優れた特性のものが知られており,例えばかつてはインバー合金やエリンバー合金が機械式時計のバネとして用いられていました.これらの合金は熱膨張率が小さかったり温度による特性変化が少ない合金で,気温が上下しても時計が正確に時を刻むのを助けていました.また磁性分野ではパーマロイやミューメタルという合金が有名です.この合金はほとんど保磁力のない強磁性体で,外部の磁場の方向に合わせて自身の磁力の向きが容易に反転する軟磁性体と呼ばれる物質の一つです.金属に沿って磁場を受け流しその裏側に磁場を通しにくい性質から,電力分野で使われるトランスなどの磁心や,精密測定の際に内部への磁場の侵入を防ぐ磁気シールドなどとして利用されています.

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