原子番号38 ストロンチウム

この元素サンプルは,ストロンチウムの単体である金属ストロンチウムをガラスに封入したものです.ストロンチウムは1808年にイギリスの化学者デービーにより単離されました.ストロンチウムという名は,この元素が見つかった鉱石の産地であるスコットランドのストロンチアンに由来します.

Element Cube_ストロンチウム

ストロンチウムはかなり酸化されやすい元素で,自然界ではすべて+2価のイオンとして存在しています.産業界における用途は,かつてはブラウン管ガラスへの添加剤が圧倒的でした.ブラウン管は電圧で加速した電子を衝突させて光らせているのですが,この時に余剰エネルギーがX線も発生させてしまうことから,これを吸収させ健康被害を防ぐ必要があります.カラーTVの加速電圧ではおよそ0.05 nmの波長のX線が発生しますが,ストロンチウムはちょうどこの波長域に強い吸収をもつことから,ブラウン管のX線遮蔽用添加剤として用いられていました.ただ,ブラウン管自体がほぼ消滅した現代では,この用途での使用はほぼ無くなっています.

その一方で,ガラスに炭酸ストロンチウムを適量添加すると融点が下がるなど加工性が良くなることが知られており,液晶ディスプレイ用のガラスや太陽電池用ガラスの製造などで利用されています.酸化物としては,セラミックコンデンサなどの誘電体やフェライト磁石への添加などにも使われています.ストロンチウムを添加したフェライト磁石(ストロンチウムフェライト磁性体)は優れた磁気特性や微粒子化しても磁気構造が不安定化しにくいことなどから,磁気記録媒体やモーターへの利用が行われています.

またストロンチウムは,非常に明るい赤色の炎色反応を示すことでも有名です.このため,赤色の花火や発煙筒などにも利用されています.変わったところでは,超高真空の実験装置内などで,極限まで真空度を上げる(=余分な原子を吸着させて取り除く)のに使用するゲッターポンプとしても利用されることがあります.ゲッターポンプというのは反応性の高い元素を真空装置内に加熱して蒸発させ,余分な気体成分と反応させることでガスを取り除くというもので,加熱したら飛ぶ程度の適度な揮発性と,各種の物質と反応する反応性が必要となります.

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