この元素サンプルは,イットリウムの単体である金属イットリウムです.スウェーデンのイッテルビーで見つかった新たな鉱物から発見された元素で,単離は1828年にヴェーラーによりなされました.発見地にちなみこの元素はイットリウムと名付けられています(※イッテルビーの鉱物からはほぼ同時期にあと3つの元素が発見され,すべてイッテルビーにちなんでテルビウム,エルビウム,イットリウムと名付けられています).
この元素サンプルは,イットリウムの単体である金属イットリウムです.スウェーデンのイッテルビーで見つかった新たな鉱物から発見された元素で,単離は1828年にヴェーラーによりなされました.発見地にちなみこの元素はイットリウムと名付けられています(※イッテルビーの鉱物からはほぼ同時期にあと3つの元素が発見され,すべてイッテルビーにちなんでテルビウム,エルビウム,イットリウムと名付けられています).
イットリウムは希土類元素元素のひとつで,同じく希土類元素のランタノイドと化学的性質が似ているため,いわゆる希土類鉱物中に混在して存在しています.このため精製には手間がかかり,他の希土類元素同様に生産にコストのかかる元素のひとつです.2000年頃の生産量は全世界でわずか2000トン程度でしたが,近年急激に上昇し,2020年ごろには1万〜1万5千トン程度となっています.
イットリウムは微量の添加剤としていろいろなところで利用されていますが,特に最近伸びている用途が白色LEDです.白色LEDでは窒化ガリウムによる青色光を蛍光体に当てて黄色などの光を発生させることで白色としているものが多く,この蛍光体にイットリウムの化合物であるYAG(イットリウムアルミニウムガーネット)が使用されています(※正確に言うと,YAGにいくつかの微量元素をドープしたもの).YAGはまたレーザーの発振媒体としても知られており,YAGレーザーは工業も含め広く使われています.
イットリウムと言えば,YBCO系高温超伝導体も忘れるわけにはいきません.それまで知られていた超伝導体は23 K程度まで温度を下げないと超伝導にならなかったのに対し,Y(イットリウム)とBa(バリウム),Cu(銅),O(酸素)からなるYBCO系超伝導体はおよそ100 Kと格段に高い温度で超伝導を示し,物性科学の世界に高温超伝導フィーバーを巻き起こしました.YBCOと同様の銅酸化物の二次元平面をもつ超伝導体の転移温度は,その後の研究で160 K程度にまで上昇することとなります.
変わった用途としては,イットリウムの同位体の一つである90Yを用いた抗がん剤が利用されています.この抗がん剤は,腫瘍細胞で発現しているタンパク質と特異的に結合する分子(抗体)に放射性元素である90Yを結合したもので,体内に注入されると血流にのって体内をめぐり,抗体の効果で腫瘍細胞に付着します.90Yはおよそ64時間という短い半減期の放射性元素であるため,体内でどんどん核崩壊して安定核である90Zrに変化しますが,この際にβ線を放ち,周囲の細胞を破壊します.β線は分子と相互作用しやすいためこの破壊は非常に局所的に起こりますが,抗体の効果で多くの分子が主要に固定されているため,腫瘍細胞をある程度選択的に破壊することが可能となります.