この元素サンプルは,ニオブの単体である金属ニオブです.この元素は1801年にイギリスのハチェットによって発見が報告されたものの,実際にはニオブとタンタルの混合物だったと考えられています.その後もしばらくはタンタルのとの分離が不完全で,しばしばニオブはタンタルと同一視されることとなります(ニオブとタンタルの性質が似ていたこともその一因です).最終的には1864年にスイスのマリニャックがニオブとタンタルを分離することに成功し,金属ニオブを得ました.ニオブという名は,ギリシャ神話のタンタロス(※タンタルの名前の由来)の娘ニオベに由来します.これはニオブがタンタルによく似た性質を示すことから名づけられました.
ニオブは単体で利用されることはほぼありませんが,鋼鉄に添加するとその強度を大きく上げることから,高張力鋼やステンレスへの添加剤として,強度が必要となる用途で利用されています.ニオブの生産量のほとんどはこの鉄鋼への添加に用いられています.また通常の鉄鋼以外にも,インコネル(ニッケルクロム系超合金)など各種超合金への添加剤としても良く用いられます.
理工学分野で重要な用途としては,超伝導線材としての利用があります.ニオブとスズやチタンなどの合金は第二種超伝導体として知られ,かなり強い磁場中でも超伝導状態を維持できることから,超伝導マグネットの材料として利用されています(※超伝導体は磁場中で超伝導が壊れるので,マグネット用途にはどれだけ高い磁場まで超伝導を維持できるかが重要となる).
その他の利用としては,ニオブ酸リチウムが強誘電体として知られており,SAWフィルタ(弾性表面波フィルタ)などの素材として利用されています.SAWフィルタは,強誘電体の持つ「物質の振動と,電気的な分極との結びつき」を利用して,特定の周波数帯以外の信号をカットしノイズを減らす効果のある素子です.ニオブ酸リチウムなどを用いたSAWフィルタは携帯電話などにも搭載され,通信品質の向上に役立っています.
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