テクネチウムのアクリルダミーです.テクネチウムには安定同位体はなく,自然界にはほとんど存在していません(ごく微量に,238Uの核分裂系列より生じてはいますが,まとまった量は存在しない).このためテクネチウムは自然界から発見された元素ではなく,史上初の人工元素として1936年に見いだされました.テクネチウムの名は,「人工の」を示すギリシャ語(Tekhnetos)に由来します.
テクネチウムのアクリルダミーです.テクネチウムには安定同位体はなく,自然界にはほとんど存在していません(ごく微量に,238Uの核分裂系列より生じてはいますが,まとまった量は存在しない).このためテクネチウムは自然界から発見された元素ではなく,史上初の人工元素として1936年に見いだされました.テクネチウムの名は,「人工の」を示すギリシャ語(Tekhnetos)に由来します.
テクネチウムには安定同位体が存在せず,その半減期も最も安定な同位体で420万年程度と,宇宙の年齢に比べると非常に短いことから,初期の地球に存在したテクネチウムはすべて崩壊してしまっていると考えられます.238Uが崩壊していく過程で,確率の低い一部の崩壊系列を辿るとテクネチウムが生じるため,自然界にも非常に微量には存在していますが,単離できるほどの量がまとまっていることはありません.周期表の43番元素を探す数多くの試みは,この元素の(当時は知られていなかった)この不安定性のために徒労に終わることとなります.
イタリアのセグレとペリエによりテクネチウムが発見されたのは,1936年の事です.彼らは,ローレンス・バークレー国立研究所から「加速器を使って重水素の原子核(陽子と中性子が結合したもの.重水素)をモリブデンに照射したサンプル」を受け取り,その分析を行いました.当時すでに,中性子や陽子などを他の原子核に高速で打ち込むと核融合が起き,新たな原子が得られること(そして,しばしば放射性の不安定同位体が得られること)が知られていました.彼らがこのサンプルを分析したところ,未知の元素を発見します.分離された元素は0.1ナノグラム以下,つまり10−10グラム以下という微量なものでしたが,熟練の化学者が精密分析を行うには十分な量でもあり,これがマンガンやレニウムとよく似た挙動を示す元素であることが判明しました(※これらの元素は,周期表でテクネチウムの上と下に位置します).
テクネチウムは,人工元素のなかではかなりの量が製造されている元素で,さまざまな錯体に変換したのちシンチグラムに利用されます.シンチグラムというのは,放射性物質を体内に注入したあとで,フィルム等により放射性物質から出ている放射線を検出し,どの部位にその原子が集まっているのかを見る手法です.どのような錯体にするのかによって特定の組織や病巣に選択的に錯体が取り込まれるように設計できるので,シンチグラムを使うと「見たい部位を選択的に見る」ことが可能となります.シンチグラムに用いる元素は,あまりにも強い放射線を出すものは組織にダメージを与えるため不適当ですし,逆にあまりにもゆっくりとしか核崩壊しない元素も十分な光量が得られないため不適当です.また体外へ透過できない(遮蔽されやすい)α線やβ線を出す核種も使用できません.この点,99Tcはほどよいエネルギーかつ,透過力の高いγ線のみを出す核種であり,イオン自体の化学的な安定性や人体への害の低さなども医療用途に適していると言えます.
医療用の99Tcの製造は,原子炉内で98Moに中性子を当てて99Moを製造するところからスタートします.この99Moは66時間程度の半減期をもち,徐々に99Tcを生じます.99Moの酸化物である99MoO42−はアルミナに非常に強く結合する一方で,99Moがβ崩壊してできる99TcO4−はアルミナへの吸着力が弱く,生理食塩水などで抽出できます.このため,99MoO42−を吸着させたアルミナを用意してそこから食塩水で溶ける成分だけを抽出するものを組んでおくと,少しずつ99TcO4−を得ることができます.このように,目的とする放射性物質を徐々に発生させる装置を,「ジェネレータ」と呼び,医療用の放射性元素を定期的に絞り出せる装置とみなすことができます.もちろん,親元素である99Moは徐々に減っていきますので,定期的に交換する必要はありますが…….
このようにして取り出された99TcO4−は,用途に合った錯体へと化学的に変換され,検査用医薬品として使用されます.99Tcは半減期が6時間程度とかなり短いため薬剤の長期間の保存はできず,製造から使用まではかなり迅速に行う必要があります.また,原料となる99Moを製造している原子炉は非常に限られており,世界で5箇所ほどに限られます(※核不拡散の必要もあるため,核種変換の原子炉をむやみやたらと建設するわけにもいきません).このため,一部の施設でトラブルがあったりすると,世界的に放射性医薬品の利用がままならなくなるという欠点を抱えています.近年では,原子炉を使わずに加速器を用いて99Moなどを量産する手法の研究なども進められています.