原子番号47 銀

このサンプルは,銀の単体である金属銀の粒ををガラスに封入したものです.銀は非常に古くから人類に利用されてきた元素で,紀元前4000〜6000年ごろにはすでに精錬が行われていたとも言われています.元素記号はラテン語で銀を表すArgentumよりAgと定められました.

Element Cube_銀

銀はかなり還元されやすい元素で,単体の銀そのものが鉱物(自然銀)として産出することもありますが,多くの場合は硫化物などとして得られ,それを還元することで単体が得られています.単体の金属として得られることの多い金に比べると鉱石から抽出・還元する手間がかかるため,かつては金よりも銀の方が珍重されるような場合もありました.しかし元素の存在量としては銀の方が数倍はあるため,採掘技術や精錬技術の進歩した現代においては,量が少ない金の方がだいぶ高価となっています.銀は銅鉱石や亜鉛鉱石中に混在しているため,これらの元素の電解精錬時に生じる残渣(アノードスライム)から回収されており,これが生産量の多くを占めます.

銀は金属元素のなかで最も高い電気伝導率と熱伝導率,反射率をもっている元素です.そのため電気回路の接点などを銀メッキすることもあるのですが,銀は貴金属のなかでは比較的酸化されやすいという弱点ももっています.このため空気中で徐々に酸化されたり,火山性のガスなど硫黄を含むものと反応して硫化物になるなど,安定性は金に劣ります.反射率の利用しては,ガラス表面にメッキすることで鏡が作成されるなど,身近なところから光学素子まで広く利用が行われています.

銀の用途としては,かつては写真用のフィルムに塩化銀や臭化銀などが利用されており最大の用途でしたが,フィルムカメラが激減に伴いこの用途での利用はほとんどなくなっています.代わりに近年大きな伸びを見せているのが,太陽電池用電極です.太陽電池も電流を流す必要上配線が必要ですが,ここに高い電気伝導率をもつ銀を使った銀ペーストが活用されており,太陽電池の普及とともに膨大な量の銀が使用されるようになっています.また,酸化銀電池と呼ばれる電池は長期間保管した際の劣化(自己放電)が少なく,しかも放電末期まであまり電圧が低下しないことから,「電力はあまり使わないが,長期間電池交換が不要な用途」として体温計や時計などの小型機器用の電池として普及しています.

銀はイオン化すると非常に強い殺菌力を示すことから,各種抗菌コートや抗菌剤としての利用も広がっています.銀イオンが細胞内に取り込まれると,タンパク質などに結合しそれを変質させることでタンパク質を壊し,殺菌力を発揮します.多くの重金属も同様の毒性を持つのですが,銀イオンは比較的人間への毒性が低めであることから,有効な抗菌物質としての利用が広く行われています(※とはいえ,銀イオンに毒性が全く無いわけではありませんので,過剰な濃度の銀イオンに触れるのはあまりお勧めできません).

変わったところでは,人工降雨にヨウ化銀が用いられています.ヨウ化銀の結晶構造は氷と比較的にていて,ヨウ化銀の微粉末があるとそれを核として氷が成長しやすくなります.このため高空で多量の水蒸気を含む大気中にヨウ化銀の微粉末を散布するとそれを核として微細な氷が成長,それが落下することで雨を引き起こすことが可能です.ヨウ化銀自体の毒性もそこまで高くはなく,また散布する量も非常に微量なので生物への毒性はほとんどないと考えられており,渇水時のダム周辺での降雨を狙うなどで利用されています.この技術は2008年の北京オリンピックの際に北京周辺を晴れされる(もっと遠いところで雨として降らせてしまう)ために使用され,一躍有名となりました.ただ,必ずしも狙った点で雨を降らせられるとは限りませんし,降る量などもコントロールできず,さらには周辺国の気候にも影響を与える可能性もあるため,批判も伴う技術です.

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