原子番号51 アンチモン

このサンプルは,アンチモンの単体である金属アンチモンです.アンチモンはその化合物が数千年以上前から人類に利用されてきた元素で,あまりに古すぎるためいつ発見された元素なのかはわかりません.単体に関しても初めて得られた時期はよくわかっていませんが,17世紀ごろではないかとも言われています.アンチモンという名の由来にはいくつか説があり確定していませんが,有力なものとしてはアンチモンを含む鉱物である輝安鉱が古代エジプトでsdmと呼ばれアイシャドーや顔料として使われており,これがギリシャでstimmiに変化,ラテン語のstibium(※アンチモンの元素記号のSbの由来)になり,これがさらにアラビアに入り冠詞のalが付与されたり読みが転化してal-ithmidに変わり,これが西洋に再輸入される際にさらに転化してantimoniumになったのではないかとも言われています.

Element Cube_アンチモン

アンチモンは化学的にはそこそこ安定性の高い金属で,常温ではほぼ酸化されません.しかし単体の金属としてみると展性にかけ脆いため,そのまま使用するのは難しい元素です.また,導電性の面でも金属と非金属の間のような半金属的な低い電気伝導度で知られています.このように単体では使用しにくいアンチモンですが,さまざまな合金に添加することで優れた特性を示すことが見出されており,例えば鉛やスズなどとの合金にすることで強度・耐摩耗性が大きく向上します.アンチモンを含む合金としては,切削加工性が良い鉄合金である快削鋼や,軸受けなど摩擦の激しい部分に用いられる減摩合金,自動車などの蓄電池で使われる鉛バッテリーなど,産業界を支える重要な添加剤となっています.

アンチモンのもう一つ重要な用途が,難燃剤です.各種プラスチック材料にハロゲン系の難燃剤とともに三酸化アンチモンを練りこむと,優れた難燃性を示すことが知られています.酸化アンチモンだけではほとんど難燃性は得られないのですが,塩素が混在すると非常に複雑で多段階の反応を経る際に各種のラジカルをトラップすることでの有機化合物の分解の抑制,一部の気化した物質による酸素の遮断効果,触媒としてはたらくことでの有機物の炭化反応の促進(燃焼しにくくなる)といった効果を発現します.このため,高層ビルなど消火の難しい場所や学校など多くの人の集まる場所で使用されるのカーテンや絨毯などには,その多くに有機ハロゲン化物と三酸化アンチモンが練りこまれ,防災に役立っています.

他の用途としては,それほど使用量が多いわけではありませんが,一部の半導体材料や,書き換え型のDVD-RやBD-Rの記録材料に用いられたりもしています.また,理学系の研究などでも良く用いられる光電増倍管(微量の光を電気に変え増幅することで検出する高感度の光検出器)の受光部の材料としても欠かすことのできない金属です.

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