このサンプルは,ヨウ素のヘキサン溶液をガラスに封入したものです.ヨウ素はフランスのクールトワにより1811年に発見・単離されました.Iodineという名は,ヨウ素を加熱した際に生じる蒸気が紫色(ギリシャ語でIoeides)であるところから命名されました.
このサンプルは,ヨウ素のヘキサン溶液をガラスに封入したものです.ヨウ素はフランスのクールトワにより1811年に発見・単離されました.Iodineという名は,ヨウ素を加熱した際に生じる蒸気が紫色(ギリシャ語でIoeides)であるところから命名されました.
ヨウ素はハロゲンの一種であり−1価の陰イオンになりやすい元素ではありますが,身近な4つのハロゲン(フッ素,塩素,臭素,ヨウ素)のなかでは最も酸化力が弱い元素です.日本はヨウ素の一大産出国で,世界の生産量の1/4〜1/3ほどを占め世界第2位の生産量を誇っています(1位はチリ).日本のヨウ素はそのほとんどが千葉の東側で産出していますが,これはかつて太平洋の海底に堆積した微生物がプレートの移動とともに日本の地下に取り込まれ,そこに含まれていたヨウ素が蓄積された結果だと考えられています.
ヨウ素は甲状腺ホルモンの主要構成元素のひとつであり,我々の代謝調整には欠かすことのできないものです.日本のように海に面した地域では海水から風で巻き上げられ地上に降り注ぐ飛沫に含まれているヨウ素により土壌中に十分以上のヨウ素が含まれていますので,ヨウ素を積極的に摂取する必要はありません.しかしモンゴルなどの内陸国では土壌に含まれるヨウ素が少ないため,しばしばヨウ素欠乏症を引き起こします.
ヨウ素は安価に手に入る重元素としてさまざまなところで利用されています.例えばヨウ素原子は原子中に多くの電子を含むためX線との相互作用が強くX線を強く吸収します.このためヨウ素を含む分子を血管などに注入すると,レントゲン撮影の際に血管を非常にくっきりと映し出すことが可能です(造影剤).また,ヨウ素は比較的マイルドな酸化剤であるため,あまり人体にダメージを与えずに菌やウィルスを酸化して分解することができます.これを活かし,ポピドンヨードなどの形でうがい薬をはじめ各種の殺菌剤として利用されていますし,単体のヨウ素以外にもさまざまな要素化合物が殺菌剤として利用されています.
意外なところでは,液晶ディスプレイにもヨウ素が使用されています.液晶ディスプレイでは,特定の偏光方向(光の振動方向)の光だけを透過する偏光板というものが必要になってくるのですが,ヨウ素はこの偏光板に利用されています.ヨウ素分子は分子軸に沿った方向とそれ以外の方向で光(の,電場の振動)に対する相互作用の強さが非常に大きく異なります.このため,高分子フィルム上でヨウ素分子を特定の向きに整列させることができれば,光の振動の向きによって吸収率が大きく異なるフィルム=偏光板を作ることが可能になります.