このサンプルは,キセノンガスをガラスに封入したものです.キセノンは,イギリスのラムゼーとトラバースが1898年に立て続けに見つけた3元素(ネオン,クリプトン,キセノン)の一つです.キセノンという名は,「異邦の」とか「馴染みのない」などの意味を持つギリシャ語のxenosに由来すると言われます.
このサンプルは,キセノンガスをガラスに封入したものです.キセノンは,イギリスのラムゼーとトラバースが1898年に立て続けに見つけた3元素(ネオン,クリプトン,キセノン)の一つです.キセノンという名は,「異邦の」とか「馴染みのない」などの意味を持つギリシャ語のxenosに由来すると言われます.
キセノンは貴ガスの一種ですが,周期表のだいぶ下にある元素であることから,貴ガスのなかではそこそこの反応性で知られています(※一般的に,周期表の下の元素ほど最外殻電子への引力が弱く,電子が外れやすい).このため貴ガスとしては珍しく比較的安定な化合物がいくつも知られており,二フッ化キセノンXeF2などは市販される程度には安定です.こういったフッ化キセノン系の化合物は反応性が高いことから,さまざまな物質を強力にフッ素化したり酸化したりする試薬として利用できます.
キセノンはそこそこ原子番号の大きい元素であるため,その質量数は酸素分子の4倍程度とかなり重い元素です.このため例えば二重窓の内側をキセノンガスで満たすと対流が抑えられ,熱伝導の低い断熱ガラスとすることができます.
キセノンは重元素であるためX線を良く吸収しますが,その一方で多くの重金属元素とは異なり人体への害がありません.これはキセノンが貴ガスであり,ほとんど化学反応を起こさないためです.このため,医療検査でX線撮影を行う際,キセノンを含む空気を患者に十分呼吸させ血管内にキセノンを多く取り込ませてから撮影を行うと,血管中のキセノンがX線を遮蔽することで血管をくっきりと映し出すことができます(造影剤としての利用).細かな血管までくっきりと映し出すことで診断の正確さを支えています.
ほかによく目にする用途としては,キセノンランプや写真撮影の際のフラッシュランプが挙げられます.キセノンを入れた封入管中での放電は非常にきれいな白色光を発するため,演色性の高い明るい光源として利用されているわけです.
変わった用途としては,人工衛星のイオンエンジンでの利用が増えてきています.人工衛星が軌道を変えたりする際には推進剤を噴射してその反動を使う必要があるのですが,原子をイオン化してやると,電圧だけでイオンをかなりの速度にまで加速して打ち出すことができ,その結果人工衛星が受け取る反動も大きなものになります.このイオンエンジン,噴射する原子以外には電力さえあればよいので,通常の意味での「燃料」が不要となり,機体をカルスコンパクトにすることができます(逆に言うと,同じサイズの機体であれば推進剤をより多く積める).キセノンはほどほどにイオン化しやすく,しかも原子一つ一つが重いため,原子ひとつを打ち出した際に多くの反動を受け取ることができます.これは少量の推進剤で十分な推進力が得られることを意味し,スペースの限られた人工衛星にとっては重要な特徴になります.