原子番号55 セシウム

このサンプルは,セシウムの単体である金属セシウムをガラスに封入したものです.セシウムはドイツのキルヒホッフとブンゼンが分光によりその存在を1860年に明らかにしまし,単離は同じくドイツのSetterbergが1882年に成し遂げました.セシウムCesiumという名は,この元素の示す青い輝線に基づき,ラテン語で青空を指すCaesiusから名づけられました.

Element Cube_セシウム

セシウムは本来銀色の金属とのことですが,微量の酸素などの存在により少し金色がかった色合いとなります.セシウムは反応性の高いアルカリ金属のなかでも格段にイオン化しやすく(※一般的に,周期表の下の元素ほど陽イオンになりやすい),例えば水に触れた瞬間に爆発してはじけ飛ぶほどの不安定さで知られています.このためセシウムを中性状態(金属セシウム状態)で用いる用途は基本的には存在していません.その一方で,セシウム塩には産業的に重要な用途がいくつも知られています.

セシウム塩を代表する用途としてまず挙げられるのが,硝酸セシウムを触媒に用いたアクリル樹脂の製造です.アクリルは非常に透明度の高いポリマーで有機ガラスとも呼ばれる素材ですが,身の回りで使われるものを含め,実にさまざまな部分で利用されています.

特に近年使用量が伸びているのが,地下の掘削です.ここ最近は掘りやすい石油がほとんど掘りつくされた結果,硬い頁岩に染み込んでいる石油であるシェールオイルなどまで採掘するようになってきました.このとき,硬い頁岩を粉々に粉砕し石油ともども吸い上げる,という採掘がおこなわれているのですが,それを実現するためにさまざまな添加剤を加えた水が良く用いられています.セシウムはそのような採掘法で必要となる代表的な添加剤です.ただこの手法には,周辺土壌を各種の化学物質で汚染する危険性なども指摘されており,必ずしも安価に石油が取れる夢の手段,というわけではない点にも注意が必要です.

その他の用途としては,生化学の各種実験で溶液(水)中のイオン強度を調整するために塩化セシウムなどが良く利用されています.細胞からDNAやRNA,タンパク質などを取り出した後の精製の際に,セシウム塩の溶液中で超遠心にかけると,重量の大きなセシウム塩がより下方に行き自動的に密度勾配が生じ,これと超遠心の遠心力,各種物質の密度との兼ね合いで物質を分離することができます.

セシウムはまた,セシウム原子時計として正確な時刻を刻む基礎ともなっています.セシウム原子時計では,セシウム原子を真空中に一つ浮かべたような状態をまず作ります.セシウムは原子核の持つ磁力と最外殻電子の持つ磁力が相互作用を起こすため,電子の磁力(スピン)の向きが原子核の作る磁力と同じなのか逆なのかという2つの状態でエネルギー差が生じます.「このエネルギー差とぴったり共鳴できるエネルギーのマイクロ波」は,(今の場合はセシウム原子を一つだけ宙に浮かべて他からの影響を遮断しているので)常に同じ振動数,9.192631770 GHzであると考えられます.このようにすることで「非常に正確な振動数」を作ることができるので,あとはそれを基準にして他の時計(などの基準)の進む速度を測ってやれば,その時計が進む速度を校正することが可能となります.

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