原子番号58 セリウム

このサンプルは,セリウムの単体である金属セリウムをガラスに封入したものです.セリウムは1803年にスウェーデンのベルセリウスとヒージンガー,そしてそれとは独立にドイツのクラプロートがスウェーデンのバストネス鉱山の鉱石中から発見しました.ベルセリウスらはこの元素を1801年に見つかった大きな小惑星(※当時は惑星とも考えられていた.現在の基準では準惑星)ケレス(Ceres.ローマ神話の豊穣伸ケレースに由来)にちなみ,セリウムと名付けました.ただしこの段階では実は元素は十分に精製されておらず,この時点で新元素セリウム(の化合物)と思われていたものからは,後年さらにランタン,サマリウム,ネオジム,プラセオジムが分離されることとなります.セリウムの単体である金属セリウムは,ヒレブラントとノートンが1875年に初めて単離に成功しました.

Element Cube_セリウム

セリウムは銀灰色の金属で,空気や水とは反応して酸化されるあまり安定性は高くはない元素です(上の写真の元素も表面が黒く変色しています).希土類元素としては地殻中での存在量が最も多く,工業的にも良く使われている元素です.

セリウムの最大の用途は,おそらくガラスの研磨剤としての利用でしょう.酸化セリウムはそこそこ硬いため物理的にガラスの表面を削るのはもちろん,ガラスと化学反応を起こし化学的にもその表面を削っていきます.これを利用して,光学用レンズの精密研磨や,液晶パネル用の薄層ガラスの製造に多用されています.また石英も同様に研磨できることから,水晶などのケイ酸塩系鉱物(宝石)の研磨にも用いられます.ガラスに関してはもう一つ,酸化セリウムの高い紫外線吸収性を活かし,ガラスに混ぜ込むことでUVカットガラスを作ることができます.これは窓ガラスやサングラスなどに用いられています.

セリウムはまた,鉄鋼への添加剤としても用いられています.製鉄の際に過剰の酸素や硫黄が存在しているとこれが鉄の品質を低下させるのですが,セリウムを微量に混ぜ込んでおくと酸素や硫黄と強い結合を生じこれらを原子レベルで分散・固定化し,悪影響を封じることができます.また鉄鋼の熱処理による黒鉛化という過程があるのですが,Ti,Pb,Biなどが混入しているとこの黒鉛化を妨害し,望んだ強度が実現できません.ここに微量のセリウムがあると黒鉛化を促進するため,これらの元素による負の影響を中和することが可能となります.セリウムはほかにも,蛍光材料や自動車などで利用される触媒,電池電極材料への添加など,産業界でも幅広く利用されています.

変わったところでは,鉄とセリウムの合金であるフェロセリウムが発火用の火花の発生源として知られています.これはセリウムが200 ℃以下の比較的低温で発火することを利用したもので,フェロセリウムを火打石などとこすり合わせるだけで火花を発し,着火することができます.電源いらずで寒冷地や高地でも使用できることから,登山やキャンプで利用されたり,昔ながらのライター(フリントライター)の部品としても組み込まれています.

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