このサンプルは,プラセオジムの単体である金属プラセオジムをガラスに封入したものです.それまでジジミウム(Didymium)という元素だと思われていたものが実はネオジムとプラセオジムという二つの元素の混合物であることをオーストリアのヴェルスバッハが1885年に発見しました.単体金属は1931年ごろに得られたと言われています.プラセオジム(Praseodymium)という名は,この元素のイオンが緑色を示すことから,ギリシャ語のニラ色(淡緑色)を意味するprásiosと,ジジミウム(didymium)を組み合わせて名付けられました.
プラセオジムも他の希土類元素と同じく酸素や水と徐々に反応し分解する元素です(上の写真でも表面にかなり酸化が生じています).プラセオジムは主に酸化物などとして用いられていますが,例えばガラスに加えると短波長の光を良く吸収するため,溶接マスクの窓剤に利用し,強い発光を遮断するために用いられています.この用途では,ネオジム(黄色の光を良く吸収する)とともに混合物として用いられることが多いのですが,ネオジムとプラセオジムの混合物はジジムと呼ばれていますが,これはかつてこれらの元素が分離される前,単一成分だと思われていた際の名称であるジジミウムの名残です.
ジルコン(ZrSiO4)にプラセオジムを固溶させると,化学的にも非常に安定な黄色の酸化物が得られます.美しい発色と高い安定性から,焼き物の釉薬の着色剤としてよく利用されています.黄色の着色剤は古くはカドミウムやアンチモンといった毒性の高い元素を含む者がほとんどでしたが,プラセオジムを用いるとほぼ同等の発色をしながらほぼ毒性のない着色剤として使用できます.釉薬以外にも,絵の具などにも利用されているようです.
かつては,(強度的に)丈夫で割れにくく化学的にも安定性の高い磁石としてプラセオジム磁石というプラセオジムとコバルトの合金が用いられていましたが,現在ではより強力な希土類磁石であるネオジム磁石が普及したため,ほとんど使用されてはいません.
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