原子番号60 ネオジム

このサンプルは,ネオジムの単体である金属ネオジムをガラスに封入したものです.それまでジジミウム(Didymium)という元素だと思われていたものが実はネオジムとプラセオジムという二つの元素の混合物であることが,オーストリアのヴェルスバッハによって1885年に発見されました.単体金属は1925年ごろに得られたと言われています.ネオジムという名は,ジジミウム(Didymium)から新しく(Neos)見つかった元素ということで名付けられました.

Element Cube_ネオジム

ネオジムも他の希土類元素と同じく酸素や水と反応し酸化されやすい元素で,上の写真でも表面にかなり酸化が生じています.ランタノイド元素は互いに化学的性質が似ているので分離しにくいのですが,特にネオジムとプラセオジムは非常によく似ており,その分離はかなり困難です.このためネオジムとプラセオジムを無理に分離せず,両者の混合物(かつてのジジミウムにちなみジジムと呼ばれる)として使用することもあります.

ネオジムの大きな用途は,何といってもネオジム磁石でしょう.ネオジム磁石はさまざまな組成の相が入り混じった物質で,主相はNd2Fe14Bというネオジム-鉄-ホウ素の合金です.現在では日用品にもよく用いられるようになったこの磁石は一般的に手に入る永久磁石としては最強の磁力を示します.磁力は非常に強力なのですが単体では耐熱性が低く,熱による擾乱により強磁性を失う温度であるキュリー温度が300 ℃程度しかなく,高温となる場所では使用できないという欠点があります(※300 ℃にならなくても,これに近い温度になればなるほど磁力が弱くなる).このため電気自動車などにはなかなか利用が進まなかったのですが,ネオジムと同じく希土類元素であるジスプロシウムやテルビウムを微量に添加することで保磁力(外部磁場などに抵抗して磁石の磁化を維持しようとする能力)が高くなり,電気自動車のモーターなどある程度温度の上がる場所でも利用できるようになりました.この改良により,現在の電気自動車のモーターはほぼネオジム磁石となっています.

ネオジムはまた,着色ガラスへの添加剤として用いられることもあります.ネオジムのイオンは黄色あたりの光を非常に強く吸収するため,溶接作業用のマスクにおける遮光や,食器などガラス器の着色のために用いられています.特にプラセオジムとネオジムの混合物を用いると,その吸収波長と光源のスペクトルとの関係から「光源の種類により異なる色に見える」という特徴があり,ガラス器でありながらもアレキサンドライトのような面白い効果(白色光の照明の時と電球色の照明の時とで全く違う色に見える)が現れます.

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