原子番号62 サマリウム

このサンプルは,サマリウムの単体である金属サマリウムです.サマリウムはフランスのボアボードランによって1879年に発見されました.単体金属は1903年にドイツのムスマンにより得られたようです.サマリウム(Samarium)という名は,この元素がウラル山脈でとれたサマルスキー石(Samarskite)から見つかったことに由来します(この石の名自体は,この鉱物の発見者であるサマルスキー由来です).

Element Cube_サマリウム

この元素も他の希土類元素と同じくそこそこ酸化されやすいのですが,酸化されると表面に酸化被膜を形成するため,多少は酸素に耐えることができます.希土類元素のなかでは存在量が多いほうで,工業的にも幾分利用しやすい元素であると言えます.

サマリウムの大きな用途は,サマリウムコバルト磁石(通称サマコバ磁石)です.昔よく使われていたフェライト磁石(昔からある黒い磁石)の1000倍という非常に強い磁力を示したことから,一時期よく使われていました.ただ近年ではより強い磁石であるネオジム磁石が開発されたことから,一般的な用途にはあまり使われなくなりました.ただ,サマコバ磁石は耐熱性が高く,ネオジム磁石のキュリー温度(磁力を失う温度)が300 ℃程度なのに対し,サマコバ磁石は700 ℃程度とかなりの高温まで磁力を維持することができます.このため高温になる部分での磁石としては今でも欠かすことができません.

サマリウムの化合物は,触媒としても良く使われています.例えば塩素化された有機物からの脱塩素反応や,脱水・脱水素反応などの触媒が知られています.またヨウ化サマリウムSmI2は有機合成でもよく使われる還元剤であり,数多くの反応で試薬として用いられています.面白い報告としては,2019年にヨウ化サマリウムを還元剤に,モリブデン錯体を触媒にすることで,常温常圧という温和な条件下で水と窒素ガスからのアンモニア合成が実現できたことが報告されています.窒素ガスからのアンモニア合成は肥料などを作るために非常に重要なプロセス(ハーバー・ボッシュ法)で,これ無しでは世界の農業が立ち行かないというほど重要な過程ですが,高温高圧の反応条件を実現するために膨大なコストと燃料を必要とするのが欠点です.もしサマリウムなどの利用でこれが常温で量産できるようになれば,世界が大きく変わるほどのインパクトです(とはいえ,実用化できるかどうかは現時点ではわかりませんが……)

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