原子番号70 イッテルビウム

このサンプルはイッテルビウムの単体である金属イッテルビウムです.この元素はスイスの化学者マリニャックが1878年に発見したとされますが,実際にはこの段階で得られていたのはイッテルビウムとルテチウムの混合物であり,これらを明確に分離したのは1907年のフランスの化学者ユルバンの成果となります(※ほぼ同時期に,オーストリアのウェルスバッハもこの2元素の分離に独立に成功しています).金属イッテルビウムが得られたのはさらに50年近くたった1953年だそうです.イッテルビウム(Ytterbium)の名は,この元素のもととなった鉱石の産地であるイッテルビー(Ytterby)に由来しますが,このイッテルビーの名はイットリウム,テルビウム,エルビウムの由来でもあります.

Element Cube_イッテルビウム

イッテルビウムはややグレーの強い銀灰色の金属です.空気中では表面が酸化されるもののこの酸化膜が内部を保護することで内側は金属状態を保ちます.ただし水とは徐々に反応するため,通常環境下ではあまり安定ではありません.

イッテルビウムは,他のいくつかのランタノイド元素と同じくYAGレーザーへの添加剤として用いられています.Yb:YAGレーザーは励起波長(940 nm)と発振波長(1030 nm)が近く,他の準位がほぼ関係しないため非常に効率の高いレーザーとして知られており,励起エネルギーの90%程度をレーザーとして取り出せる非常に高効率なレーザーです.

イッテルビウムはまた,現在開発の進められている光格子時計での利用が行われています.光格子時計というのはレーザーで作った2次元格子状の安定点に原子をトラップし,それを用いて時間を超精密に測定する装置で,現在使われている原子時計よりもはるかに精密に時間を測定することが可能となります.光格子時計は基礎物理学における超精密測定に利用できると期待されており,多くの研究が行われています.

イッテルビウムのいくつかの同位体は,放射線源としての利用が行われています.ほかにも,ステンレス鋼などに微量に加えることで強度を高めたりといった用途もあるそうです.

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