このサンプルはルテチウムの単体である金属ルテチウムをガラスに封入したものです.ルテチウムは1907年にフランスのユルバン,オーストリアのウェルスバッハが独立に発見しました.また同じ年にはアメリカのジェームスもルテチウム(正確にはその酸化物)の単離に成功していたものの,前にユルバンの発表が行われたために自身の成果は発表せず,そのため前二者がルテチウムの発見者とされることが多いようです.彼らはイッテルビウムの酸化物として精製されていたイッテルビアの中に未知の元素が微量に含まれていることに気づき,ルテチウムの発見に至りました.単体である金属ルテチウムは1953年頃に得られたようです.ルテチウム(Lutetium)という名は,ユルバンがローマ時代の都市ルテティア(Lutetia,現在のパリの祖先)にちなみ名付けました.
ルテチウムはランタノイド最後の元素で,ランタノイド類の中では比較的酸化されにくい元素で,乾燥した空気とはあまり反応せず金属状態を保てます.ただし湿度があると酸化が進んでしまうため,単体金属をそのまま利用するのが難しいことには変わりありません.
ルテチウムは取れる量が少なく(※とは言え,地殻中の存在量では銀より多い),また精製も手間がかかるためかなり高価な金属となっており,産業的な用途はほとんどありません.ただ全く使われないというわけではなく,石油化学におけるクラッキング(※原油を高温下で分解し,分子量が小さく取り扱いやすい分子に変換する過程)での触媒に使用したり,一部の有機化学反応における触媒に利用するなどされています.
ルテチウムの同位体には放射能をもつものがいくつもありますが,その中の177Luの錯体が神経内分泌腫瘍に対する放射性医薬品として用いられることがあります.177Luは6.7日の半減期でβ崩壊する放射性元素で,生じるβ線はエネルギー(≒速度)が低く透過力が低いため,比較的局所的に細胞を破壊することができます.
変わったところでは,176Luが非常に長い半減期(370億年程度)でゆっくりと176Hfに変化していくことを利用し,天文学における年代推定に利用されています.ただしこの用途で使用する場合,太陽系初期の177Hfと176Hfがどんな比率だったのか,という推計値や,隕石や惑星の形成におけるいろいろな過程での元素の濃縮具合などに関する推計を考慮する必要があるため,かなり込み入った議論が必要だったり,値の信頼性がそこまで高くない場合などもあります.
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