このサンプルはタングステンの単体である金属タングステンの塊です.タングステンは1781年にスウェーデンのシェーレが発見し,1783年にスペインのエルヤル兄弟が単体金属の精製に成功しました.タングステンTungstenという名は,北欧のあたりの言葉で重い(Tung)石(Sten)からきています.元素記号はドイツ語やラテン語のWolframがもとになっていますが,これはタングステンを含む鉱石である鉄重マンガン石がWolframitと呼ばれたことに由来しますが,この名はスズの精錬の際にWolframitが混入するとスラグ(鉱滓)を作って精錬を阻害してしまうことから,「スズを狼(Wolf)のように貪り食ってしまう石」として名付けられたとも言われています.
純粋なタングステンは銀白色の美しい金属ですが,微量の不純物の存在により呈色しやすいことが知られています(実際,写真のサンプルもかなり黒くなっています).またその展延性なども不純物の影響を大きく受け,純粋なタングステンはやわらかい金属なのですが,少量の不純物が混ざると硬くてもろくなることが多い金属です.
タングステンは融点が3400 ℃程度と非常に高く,耐熱性の器具や,白熱電球のフィラメントや通電加熱用のヒーター材料などとして利用されています.また炭素との化合物である炭化タングステンは非常に硬度が高く耐熱性もかなりのものなので,超硬工具の材料としてもよく利用されます.炭化タングステン以外にも,鉄にタングステンなどの金属を加えた合金がハイスピードスチール(高速度鋼,ハイス鋼)として高速切削用の工具として使用されています.炭化タングステンはほかにも,コバルトなどとともに焼結することで超硬合金とすることができ,これは例えば身近なところではボールペンのボールなど,強度と耐久性が要求される用途で使用されています.
タングステンは非常に重い金属でもあり,その密度はおよそ19.25 g/cm3と,金(19.32 g/sm3)とほぼ同じです.このためタングステンを中心にその周囲のみを純金で覆った偽造金塊が詐欺に用いられることもあるようです.タングステンの高い密度を活かした用途としては,砲弾が挙げられます.戦車砲用の徹甲弾などに利用され,その硬さと比重を活かして装甲を貫通することが可能となります.またタングステンの高い密度は放射線の遮蔽能を高くすることにも繋がり,鉛を超えるX線の遮蔽能力をもつ合金などが実用化されています.
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