このサンプルはイリジウムの単体である金属イリジウムの線材です.イリジウムは1803年にイギリスのテナントがオスミウムとともに発見しました.この元素はさまざまな色調の塩を作ったことから,ギリシャ語の虹の女神イリス(Iris)にちなんで名づけられました.
このサンプルはイリジウムの単体である金属イリジウムの線材です.イリジウムは1803年にイギリスのテナントがオスミウムとともに発見しました.この元素はさまざまな色調の塩を作ったことから,ギリシャ語の虹の女神イリス(Iris)にちなんで名づけられました.
イリジウムは銀白色の硬くてもろい金属で,白金族の一つです.他の白金族同様,プラチナ鉱石中に混じって算出することが多く,白金精錬時の副産物として生産されることが中心となっています.ただ,イリジウム自体は存在量が非常に少ないため,世界での生産量は年間で4トン前後とかなり少なくなっています.
イリジウムは非常に高価な金属ですが,その融点がおよそ2470 ℃とかなり高く,しかも化学的にも安定性が高いことから高温が必要となるるつぼの材料に使われることがあります.例えば電子素子の原料などになる合成サファイヤの結晶化においては,サファイヤの融点である2040 ℃を超えても使えるるつぼとしてイリジウムるつぼが使用され,高純度のサファイヤの作成に役立っています.またかつて1 kgや1 mの基準として用いられていたキログラム原器やメートル原器は,長期間の保管でもほとんど変形せず化学的な安定性も高いということでプラチナ90%-イリジウム10%の合金が用いられていました.なお,現在ではキログラム,メートルともに物理定数などをもとにしたより正確な定義に移行しています.
身近なところでは,白金製の宝飾品(指輪やネックレスなど)にイリジウムを含む合金が使用されています.プラチナ100%ではやや柔らかく変形しやすいため,パラジウムやロジウム,イリジウムなどを加えることで硬度を高めて使用されます.
他には,エンジン用のスパークプラグにもイリジウム合金が用いられています.イリジウムは高温への耐性が高く化学的にも安定しているため,スパークプラグのような過酷な状況下で利用する電極にも適していると言えるでしょう.
イリジウムといえば,隕石との関連も科学の世界では有名です.イリジウムは地殻中での存在量は非常に少ないのですが,隕石には(それと比べれば)比較的多く含まれていることが知られています.恐竜が滅んだ白亜紀末期の地層には,全世界的にイリジウムを多く含む層が存在しており,ここからこの時期に大きな隕石が地球に衝突し,そこに含まれていたイリジウムもろとも大量の土砂が世界中にまき散らされたことが明らかとなりました.この隕石の衝突だけで恐竜(を含む,この当時の生き物のほぼ99%)が死滅したのかどうかには議論があるところですが,その引き金になったことはまず間違いがないでしょう.