このサンプルは,かつてファイアストン社が販売していた「ポロニウムを利用したスパークプラグ」です(とはいえ,半減期を考えるともはやポロニウム原子は残っていないことになりますが).ポロニウムは1898年にキュリー夫人により発見され,その祖国ポーランドにちなんで名づけられました.
このサンプルは,かつてファイアストン社が販売していた「ポロニウムを利用したスパークプラグ」です(とはいえ,半減期を考えるともはやポロニウム原子は残っていないことになりますが).ポロニウムは1898年にキュリー夫人により発見され,その祖国ポーランドにちなんで名づけられました.
ポロニウムには安定同位体が無く,最も寿命の長い209Poでもその半減期は103年にすぎません.自然界に微量に存在しているポロニウムはほぼすべてが半減期が138日の210Poで,これは地殻中にそこそこの量が存在する238Uから始まる崩壊系列の途中に位置していることから,ある程度の量が継続的に生成し岩石中に含まれることとなります.キュリー夫人は,膨大な量のウラン鉱石を精製することでポロニウム(と,ラジウム)の分離に成功しました.
自然界の鉱石からポロニウムを得るのは現実的ではありませんが,代わりに原子炉からの中性子線を利用して209Biを210Poに変換する方法で,ある程度まとまった量の210Poが作られています.このようにして作成された210Poは,例えば放射線式の静電気除去装置に組み込まれるなど,イオン源として実用化されています.
ポロニウムはまた,ロシアが暗殺に利用しているとして幾度も話題に上がる元素でもあります(ロシアは公式には認めていませんが).210Poは非常に強い放射線を出すもののそのほぼすべてがα線のみで,薄紙一枚で完全に遮蔽できるため容器内の210Poを検出することはほぼ不可能です.一方で一度210Poが体内に入れば,内部被曝により組織に大きなダメージを与えるため非常に強い毒性を示します.これまで複数件の暗殺事件において被害者から210Poが検出されており,その入手の困難さなどからロシアによる組織的な犯行が指摘されています.