原子番号88 ラジウム

このサンプルは,ラジウムを含む夜光塗料が塗られた航空計器の指示針です.ラジウムはキュリー夫妻が1898年に発見し,1910年にはキュリー夫人自ら金属ラジウムの単離に成功します.ラジウムRadiumという名は,放射や放射線を指すラテン語のRadiusに由来します.

Element Cube_ラジウム

キュリー夫人が放射性元素を含む鉱物の放射線測定を行った際,燐銅ウラン鉱や閃ウラン鉱の示す放射能が含まれるウランから予想される値よりさらに高いことを見出し,これらの鉱物内に未知の放射性元素が存在することを発見します.その新たな放射性元素の探索が,ポロニウムとラジウムの発見につながりました.

ラジウムは非常に強い放射線を放つことから,以前は放射線療法などに用いられたこともあります.ラジウム自体は遮蔽の容易なα線のみしか出さないのですが,崩壊後の元素が娘核種はβ線や遮蔽の難しいγ線を出すなどするため利用が難しく,現在ではほとんど用いられていません.

産業面では,かつてはラジウムの出す放射線で蛍光塗料を光らせることで蓄光不要で光り続ける夜光塗料として大量に利用され,さまざまな計器の文字盤や指示針,時計などに用いられていました.特に時計を量産していたアメリカではパート従業員の女性がラジウム塗料を塗る労働に多数従事していたのですが,当時は放射性物質の害が一般社会にはあまり理解されていなかったこと,従業員への教育がほぼ行われていなかった(それどころか,無害な塗料であると間違った教育がなされていた)ことなどから,塗料のついた筆先を舐めて修正することが当然のように行われ(※時短のための会社からの指示でもありました),それにより汚染された唇や口内に,顎などが癌化したり,顎が壊死してしまったり(※ラジウム顎)と,多くの健康被害をもたらしました.

ラジウムは放射線が強く,崩壊により気体の放射性元素であるラドンを生じるなど取り扱いが面倒なところが多く,現代ではほとんど利用されていません.数少ない例外が骨へと転移した癌への抗がん剤で,ラジウムイオンがカルシウムイオンと同じように取り込まれる性質を利用し,223Raのイオンが利用されています.静脈中に注入された223Raは骨に優先的に取り込まれ,そこで増殖している細胞=DNAの二重鎖がほどけていて放射線に弱い細胞を破壊します(※ただし,癌細胞以外の細胞も破壊するため,副作用もあります.多く抗がん剤に言えることではありますが……).

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