このサンプルは,トリウム4%-タングステン96%の合金です.トリウムは1828年にスウェーデンのベルセリウスが発見しました.単体金属の単離は1914年にオランダのレリー Jr.とハンバーガーにより成し遂げられたようです.トリウムThoriumという名は,北欧神話の神であるトールThorにちなんで名づけられました.
このサンプルは,トリウム4%-タングステン96%の合金です.トリウムは1828年にスウェーデンのベルセリウスが発見しました.単体金属の単離は1914年にオランダのレリー Jr.とハンバーガーにより成し遂げられたようです.トリウムThoriumという名は,北欧神話の神であるトールThorにちなんで名づけられました.
トリウムは比較的酸化されやすい金属で,天然には+4価の化合物として産出します.トリウムには安定同位体はありませんが,自然界のほぼ100%を占める232Thは半減期が140億年ほどと非常に長く,地殻中にはある程度の量(地殻のおよそ0.0012%)が含まれています.これはウランの数倍とそこそこの資源量であり,それも後述するトリウム炉が推進される理由の一つでもあります.
かつてはいくつかの用途で用いられてきた金属ですが,現在ではあまり用途はありません.残っている数少ない用途の一つが,TIG溶接用の電極棒です.トリウム-タングステン合金を電極棒に用いてTIG溶接を行うと,電極の摩耗が少なく長期間の使用ができ,溶接個所への不純物の溶け込みが少ないことから現在でも利用されることがあります.
トリウムの用途で最近注目されているのが,原子炉燃料です.232Thが中性子を吸収すると233Thとなり,これは迅速にβ崩壊を起こし233Paに,そしてこれが半減期27日ほどで再度β崩壊して233Uに変わり,これが燃料として利用できます.233Uは核崩壊の際に中性子を出しますので,一度このサイクルが回り始めると,比較的資源の豊富なトリウムを原料に233Uを生成し続けることがかのうです.トリウム炉はトリウム資源が豊富なインドなどで研究が進められています.トリウム炉では,トリウム塩をフッ化物の溶融塩に融解し,液状の燃料として反応を行う溶融塩炉が開発の主流です.トリウム溶融塩炉は小規模であれば完全空冷が可能で冷却機構の喪失による事故の問題が無い事,燃料棒などの細かな制御を必要とする機構が無く燃料棒の融解による暴走などが無いこと,核兵器用プルトニウムの製造には向かないことなど高い安全性・事故耐性が謳われ,また核廃棄物の大部分が比較的半減期の短い(30年以下程度)物質であることから,核廃棄物の保管も数百年単位に収まることなどが利点として挙げられています.ただし,まだ研究中の技術でもあり,特に溶融塩による配管の腐食などに関しては今後の研究・評価が必要と考えられ,夢の技術となるかどうかは予断を許しません.