引き続きSQUIDを用いた測定の説明ですが,今回は単結晶です. 図のように,1の経路にカミソリで切り込みを入れ,2のようにパカッと開きます. そうしたら,ストローの内面に結晶貼るための糊としてグリスを塗りつけます.アピエゾンNなどが磁化が小さくてなかなかお勧めですが,温度を室温より上げる場合には熱でグリスが流れてしまい使えません.そのような少し温度を上げたい場合には,ある程度高温まで固さを保つアピエゾンHが使えます.グリスは爪楊枝の先に少しだけ付けて,ストロー内面に薄くのばしていきます.グリスは塗った分だけ反磁性に寄与しますので,出来るだけ少量の方が有利です.
グリスを塗り終わったら,ストローの切り開いた蓋をまた閉じ,バックグラウンドの磁化を測定します.通常はグリスの磁化はほぼ温度変化しないため,室温での測定値を全温度領域でのバックグラウンドと等しいと考えてかまいません.(気になる場合は全温度領域で測り直してもかまいませんが,時間がかかります) 結晶を張り終わったら蓋を閉じて重さを測り,貼り付けた結晶の重さを求めます.その後は普通に測定を行えばOKですが,粉末試料の時以上に結晶が落下する恐れがありますので,ストローの下部はカプトンテープで蓋をして,(測定にかからないよう十分距離を開けて)側面の上下に空気穴を開けておきます. さて,次は針状晶の横方向に磁場をかけたいという場合や,異なる2軸を簡単に測りたい場合の手法です.ストローの側面は曲面であるため,ある程度大きさのある針状晶を横向きに貼るのはほぼ不可能です.そのため,ストロー内に貼り付ける際の台となるための板をあらかじめ入れておきます.この板は何でも良いのですが,ある程度形状を保ちつつ薄手のものが適しています.私は昔ながらのOHPシートを,表面に塗られているコーティングをトルエン等で溶かした上で使用しています.こういった薄いプラ板等をストローの直径よりやや大きな幅と,ストローの長さに近い長さを持つ短冊状に切り出し,ストローの中に通します.この際,ストローを少し押しつぶしてひしゃげさせ,そこに短冊を入れていくときれいに入ります.
幅がストローよりも少し大きいため,ストローが元に戻ろうとする力で板が固定されます.その後,先ほどと同様にストローに切れ込みを入れ開き,このプラ板に結晶を貼り付けていけば結晶を横向きに貼ることが出来ます. そうすると,爪楊枝などでこの丸っこい2枚目のプラ板を丸ごと回転させることで,もう一軸の測定が可能になる,というわけです.こうすると,サンプルの量もバックグラウンドの大きさも厳密に同じで2軸の測定が出来るため,比較が容易になります. では,平板状の結晶の面に垂直方向に磁場をかけるにはどうすればよいか,というと,一番面倒なことになります.まず,いつものようにサンプルを貼り付けるための開口部を作っておき,そのちょっと下にストローに垂直に切れ込みを入れます.この切れ込みはストローの前後2箇所に入れ,板が貫通できるようにします. そうしたら,この前後の切れ込みを貫通するように薄いプラ板を差し込みます.その後,ストローからはみ出している部分を適当な長さで切り落とします.この時,ストローからのはみ出しをあまり短くするとプラ板がずれたときにストロー内部に落ちますし,逆にあまり長いとサンプルスペースに納まりません.こうして,磁場に垂直な足場がプラ板によって作れたら,そこに結晶を貼っていきます. こうすれば平板状の結晶であっても,磁場を面に垂直方向にかけることが可能になります.ただ,バックグラウンドは一番大きく出るし,プラ板を差し込んで適度な長さに切るのは大変だし,油断するとプラ板が切れ込みの内側に引っ込んでしまいせっかく貼った結晶が駄目になるし,と,他の2軸に比べ大変です. 単結晶試料できちんと異方性を測定してやると,自発磁化の方向であったり,厳密な自発磁化の大きさであったり,スピンフロップ磁場がきれいに見えたりと,異方性の大きさやらスピン構造の手がかりやらが得られるため,粉末試料より多くの情報を得ることが可能です.その一方,貼り付けられる結晶の量が限られるため,特に高温部での定量性などでは多量の結晶を向きを考えず寄せ集めた無配向試料の方が適している場合もあります.用途を考え,最適な手法を選ぶことが重要です. |