磁化率の測定結果からスピン間の相互作用の強さなどを求めようとした場合には,何らかの式を用いた
フィッティングを行うこととなります.もちろん自分でモデルを立てて計算してもよいのですが,
典型的なケースに関しては数多くの論文があり,それらで導出された式を用いることで(当てはめる
モデルが現実の系と一致していれば)比較的簡便に相互作用の強さなどが求まります.
この場合のスピンHamiltonianは,Hexを外部磁場,Jij を スピンi-j 間の相互作用として
と書くことができます.さてここで磁化について考えてみると,磁化は自由エネルギー F を用いて
と表せ,さらに自由エネルギーは分配関数
を用いて
と書くことが出来ますから,結局
のように,有限系であればハミルトニアンを書き下ろして,そこから分配関数を作ることで
(原理的には)任意の温度,磁場中での磁化を求めることが可能となります. スピンの大きさがS1とS2の2つが相互作用Jで結ばれている系を 考えます. この系のスピンハミルトニアンは
となります.ここで,これら二つのスピンの合成
を考えると,ハミルトニアンは
と変形できます(ベクトルとスカラーと入り混じっていてわかりにくくてすいません).
ここで最後のS12とS22の項はエネルギーの
原点を移動させるだけですので,無視してもかまいません.
ここまでくれば,あとは合成スピンSとその磁場方向成分Szについて和をとって
やれば分配関数が求まり,そこから自由エネルギー,ひいては磁化が計算できます.
ここで,今の場合はS=0,Sz=0の場合と,S=1,Sz=-1, 0, 1の場合の 計4通りしかありませんので,馬鹿正直に足し上げて
とモル磁化率が求まります(Nはアボガドロ数).同様にすれば(数え上げる項の数は 多くなりますが)S=1/2以外の2核錯体や,異なるスピンの2核錯体,dimerを組んでいる ラジカル分子などの磁化率が求まりますし,実験データをフィッティングしてやることで それら2つのスピン間に働く相互作用の大きさを見積もってやることが可能となります. |